「言ったはず」「聞いてない」をなくす:約束事の確認と共有の基本
はじめに:「言ったはず」「聞いてない」はなぜ起きるのか?
友人との待ち合わせ、サークル活動での役割分担、家族との買い物の約束など、私たちは日々、誰かと何かを決めて行動しています。その中で、「あれ?私はこう聞いてたのに…」「そう言ったつもりだったんだけどな」といった行き違いが生じ、少し気まずい雰囲気になったり、時には関係にヒビが入ったりすることもあるかもしれません。
なぜ、このような「言ったはず」「聞いてない」という事態は起きるのでしょうか?
原因は様々ですが、一つは人間の記憶の曖昧さです。話したこと、聞いたこと全てを正確に覚えているわけではありません。また、言葉や状況の捉え方は人それぞれ異なります。伝え手は「これくらい言えば伝わるだろう」と思っても、受け手には別の意味に聞こえていることもあります。忙しかったり、別のことを考えたりしながら話を聞いていると、重要な部分を聞き漏らしてしまう可能性もあります。
これらの行き違いは、意図的なものではなく、ちょっとしたコミュニケーションのズレから生じることがほとんどです。そして、このズレを減らすためには、「確認」と「共有」という基本的なコミュニケーション術が役立ちます。
約束事や決定事項を「伝える側」が意識したいこと
あなたが誰かに何かを伝え、それを約束事や決定事項としたい場合、相手に正確に理解してもらうために意識したい基本的なポイントがあります。
1. 明確で具体的な言葉を使う
曖昧な表現は誤解のもとです。「たぶん」「〜しておいてくれると助かるな」といったぼかした言い方ではなく、「〇月〇日△時までに、〜について□□さんに連絡してほしい」のように、いつ、どこで、何を、どうするのかを具体的に伝えましょう。
例えば、「今度ご飯行こうね」は素敵な誘いですが、約束としては曖昧です。「来週の木曜日、駅前の新しいカフェでランチしない?」のように、具体的な日時や場所を含めると、相手も予定を立てやすく、話が進みやすくなります。
2. 重要な点は繰り返す、強調する
特に大切な情報や、相手に確実にしてほしいことは、一度伝えただけでは伝わらない可能性があります。話の流れの中で、重要なポイントは少し間を置いたり、声のトーンを変えたりして強調するのも一つの方法です。「ここが一番大事な点なんだけどね」と前置きするのも良いでしょう。
また、最後に内容を簡単に要約して繰り返すのも効果的です。「今日の話し合いのまとめとして、〜については私が担当して、△△さんは〜を進める、ということで合っていますか?」のように、伝える側から確認を促すこともできます。
3. 相手の理解を確認する問いかけをする
伝えっぱなしにせず、相手が内容を理解できたかを確認する一言を加えましょう。「今の説明で分かったかな?」「何か不明な点はある?」といったオープンな質問は、相手が話しやすくなります。
もし相手が黙っている場合でも、「少し早口だったかもしれないけど大丈夫?」など、相手を気遣う言葉で確認を促すことができます。ただし、尋問するような口調にならないよう、穏やかに尋ねることが大切です。
約束事や決定事項を「受け取る側」が意識したいこと
何かを依頼されたり、一緒に物事を決めたりする場合、内容を正確に理解し、後々の行き違いを防ぐために、受け取る側にもできることがあります。
1. 集中して聞く、積極的に聞く姿勢を見せる
話を聞く時は、できるだけ他の作業から離れて相手に意識を向けましょう。相づちを打ったり、相手の目を見て話を聞いたりすることで、「聞いていますよ」という姿勢が伝わり、話し手も安心して伝えやすくなります。
2. 自分の理解を伝え返す(言い換えや要約)
聞いた内容を自分の言葉で言い換えて相手に伝え返すのは、非常に有効な確認方法です。「つまり、〜ということですね?」「私が理解した限りでは、〜で合っていますか?」のように、自分の理解が正確かどうかをその場で確認できます。もし誤解があれば、その場で修正してもらえます。
3. 分からない点、曖昧な点はその場で質問する
少しでも「これはどういう意味だろう?」「どちらのことだろう?」と疑問に思ったら、恥ずかしがらずにその場で質問しましょう。後から分からなくなるより、その場でクリアにする方が、お互いにとって確実です。質問することで、話し手も「自分の説明が不十分だったかもしれない」と気づくことができます。
4. 必要に応じてメモを取る、記録する
重要な約束や複雑な内容は、口頭で聞くだけでは忘れてしまったり、細かい点が曖昧になったりしやすいものです。許可を得てメモを取ったり、後でメッセージアプリやメールなどで内容を簡単にまとめ、「これで合ってるかな?」と相手に確認するのも良い方法です。
関係性に応じた確認・共有のヒント
確認や共有の方法は、相手との関係性や状況によって柔軟に変えることが大切です。
- 友人とのカジュアルな約束: メッセージアプリでのやり取りが多い場合、「〜でOK?」「了解!」といった短い確認メッセージを送るだけでも効果的です。集合場所や時間をグループトークで共有するのも良い方法です。
- 家族とのルールや役割分担: 紙に書き出して共有したり、家族で共有できるカレンダーアプリを使ったりすると、視覚的に確認しやすくなります。定期的に家族会議などで確認する機会を設けるのも良いでしょう。
- サークルやグループでの決定事項: 議事録を作るほどではない場合でも、話し合いで決まった内容を箇条書きにしてメッセージや共有ツールでメンバーに送るなど、全員が確認できる形で共有することが望ましいです。
もし行き違いが起きてしまったら?
どんなに注意しても、行き違いが起きてしまうことはあります。そんな時は、相手を責めるのではなく、まずは落ち着いて状況を確認しましょう。
「あれ、私は〜だと思ってたんだけど、〜だったんだね。どういうことかな?」のように、非難がましくなく、事実関係を確認する姿勢で話すことが大切です。感情的にならず、お互いの認識のズレを冷静に話し合うことで、解決策を見つけやすくなります。そして、今後のために「次はこうしようね」と再発防止策を一緒に考えることも、関係性を良好に保つ上で役立ちます。
まとめ:少しの意識が、大きな信頼へ
約束事や決定事項の確認・共有は、特別なスキルというよりも、相手を大切にし、共に物事を円滑に進めたいという意識から生まれるものです。完璧を目指す必要はありません。伝える時に「伝わったかな?」と少し立ち止まる、聞く時に「これで合ってる?」と一言添える、といった小さな意識の変化から始めてみましょう。
これらの基本的な積み重ねが、お互いの誤解を減らし、「この人との約束は大丈夫」「この人に伝えれば安心」という信頼感に繋がっていきます。コミュニケーションは、お互いの歩み寄りによってより豊かなものになっていくのです。